愛、シテあげる。番外編
勝負が始まってから数日間、特に何も起きることは無かった。

僕と真央さんは、かなりの臆病者らしい。
たった5文字を言えないなんて。


「もどかしいですね……」


今日もいつものように、枝の上に座って空を眺める。

太陽は既に西に傾き、空をオレンジ色に染めていた。



僕はもどかしい気持ちと、甘酸っぱいような気持ちを抱えたまま、流れる雲を見つめる。


真央さんに会ってから、僕は変だ。

女の子に対して好感を持つことは無かったのに。
誰かと長い時間一緒にいるなんてことは嫌いだったのに。


彼女は、僕の張ったバリアをいとも簡単に溶かしてしまったみたいだ。



「はぁ……真央さん」


名前を呼ぶと、胸がひどく痛む。ついでに心臓もドキドキしてしまって、苦しい。


この気持ちは、まさか?


伊達に本を読んできたわけじゃない。この苦しみが表すものが何なのかくらいは分かった。


だけど、そんなわけ、ないはずなのに。


初めは、嫌いだったのに。

しかも彼女は、男性恐怖症。それにちょっと変わってて、慌てん坊で、甘えるのが下手で、すぐ他人のことを気遣って…………。


挙げればきりがない。



俯いて、キュッと目を閉じれば、浮かんでくる彼女の笑顔。


ああ、僕は今、


とんでもなく、真央さんに恋してる。




瞼の裏に焼き付いた彼女の笑顔が愛しすぎて、涙が出そうになった。



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