愛、シテあげる。番外編
「蓮くーん!お父さんがお迎えに来たよー!」


遠くから聞こえる仲山先生の声。

お父さんという言葉に、パッと顔を上げると、急いで木から下りて走り出す。



玄関のガラス越しに見える背中に、胸が躍った。


昌彦さんだ。



「あ、蓮くん!お迎えだよ」


「まさひこさん!おしごとはだいじょうぶなんですか!?」


とびつかんばかりの勢いで走ってきた僕を、柔らかな笑顔で迎えてくれる。


「うん。蓮ともっと一緒にいたくてね、今日は早く終わらせたんだ」


「ありがとうございます!」


いつも笑わない僕が、満面の笑みを浮かべていることに、仲山先生は目を丸くした。

でもそんなことは気にせずに、荷物を取りに急いで部屋に戻った。



部屋に入ると、まだ何人か残っていて、その中に真央さんもいた。

「あ、蓮くんかえるの?」


「はい、きょうはまさひこさんがきてくれたんですよ」


僕は慌てて荷物をまとめる。

その横で、真央さんは忙しなく目を泳がせている。
あのときのように。



「あのさ、蓮くん……」


「はい?」


「えっと……、その…わたし、」


「あ、あとハブラシ!」


バタバタと走る僕は、気づかない。
真央さんの表情に。


「じゅんびかんりょうですね」


「蓮くん…あの」


「はい?」


「あ、わたしね、」


俯く真央さんに、少し苛立ちを覚える。

早く行かないと…昌彦さん待たせてるのに。


「あしたでもいいですか?」


「あ……うん。まさひこさんがきてくれてよかったね」


「はい。ではまたあした」


ウキウキしている僕は、真央さんの作り笑顔に騙されていた。

「うん。バイバイ、蓮くん…」


そう言って、真央さんは笑った。


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