愛、シテあげる。番外編
記憶の片隅に残っていた、茶封筒。

確か、今朝家を出るとき、玄関に置いていってしまったんだった。


「すっかり忘れてたよ……」


「大丈夫ですか?……今年はずっと、休日も出勤してますよね」


体に変わりはないか?

ちゃんと食べているか?


など、心配した声を漏らす蓮に、私は目が熱くなった。


優しい子だ。本当に。
弱った心に、蓮の温かさが染み渡る。

泣きそうになる気持ちを抑え、相槌を打つ。


全く、まだ中学生の息子に、気を遣わせてしまうなんて。
私は、なんて情けない父親だろう。


「ありがとう。蓮は優しいな」


本心を伝えると、受話器の向こうで蓮がモゴモゴ言うのが聞こえた。


蓮は誉めるとすぐ照れる。

顔は見えないけれど、きっと頬が赤いだろうな。


そんな可愛い息子とずっと話していたいのに、私の秘書は咎めるようにこちらを睨んでいる。

仕方がない。


「蓮、悪いんだけど、書類を届けてくれないかな」


「いいですよ。丁度家に帰ったところですから」


「ありがとう」


「いえ。では20分後に」


数秒後、ツー、ツーと聞こえてくる機械音にため息。


もう少し癒されたかったけど、私の秘書がさっきから目から光線を出してるからね……仕方がない。

秘書、他の人に代わらないかなあ。


もっと優しくて、気が利いて、笑顔が明るくて…………


そう、彼女のように……。



「…いや、いやいや私は何を」


いけないいけない。


……そう思いつつも。

一瞬浮かんだ人物は、一番適役ではないだろうか、と

考えずにはいられなかった。



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