先生と生徒
「マキ、お待たせっ」
先生との会話もそこそこに和也が戻ってきた。
「ありがとっ」
「どういたしまして♪」
この笑顔にも先生と違う安心感。
「マキって言うの?」
翔くんが屈託のない瞳で尋ねてきた。
「そうだよ?」
「マキー!好きーっ」
翔くんはそう言うと私の足に抱き着いてきた。
「こらっ!離れろっ」
和也が反抗。
「やーだっマキ好き」
「悪いな酒井。変なのに好かれちまって」
「…いえ」
翔くんの頭を撫でる。
…翔くん、ごめんね。
ごめんね。
翔くんのお父さんの事、好きなんだ──…
切なげに翔くんを見る。
その瞳をさらに悲しげに見ている人には…気付かなかった。
…いや、気付けなかった。
自分の気持ちに気付いてしまったから。
気付いてはいけない事を気付いてしまったから。
だから、気付けなかったんだ。