先生と生徒
和也の部屋に入ってすぐ、和也は私に謝ってきた。
「ごめんな…!親父帰ってくるなんて思ってなくてさ?」
部屋をグルリと見渡す。
「マキ?」
「あ、うん…気にしてないから大丈夫」
男の子らしい大雑把な部屋。
シンプルなベッド。
何冊かの野球の本。
「…あ、それね…」
私が野球の本を見ていたら声がした。
「もう、出来ないんだからいらないんだけど…さ。
まだ、やっぱり捨て切れなくてさ」
「…うん」
どこかを見ている和也の目は夢に向かって走るような少年の目。
「…って、暗くなって悪い!!」
「私は、話してくれて嬉しいよ?」
背伸びしても届くか分からない和也の頬に小さな手を乗せる。
「中学生の和也がどんなに辛くて、どんなに悲しかったかなんて分かんないけど。
私に少しでも話してくれたってことはすごいことだから。だから和也は大丈夫だよ。今は私がいるからね…?」
なぜこんなことを言ったのか。
なぜこんなことをしたのか。
特に理由なんてないけど、羨ましかったんだ。
夢を持っていて、凛とした和也の姿が。
「マキ…ありがと」