先生と生徒
「玄関でぶつかったの、覚えてません?」
先生は一度"うーん"と悩んだような顔をして、"あ!"と声を出した。
「あの時ぶつかったのって酒井だったのか?」
「まさか先生だなんて思ってもみませんでした」
「失礼だな」
「正直と言って下さい?」
「まぁそうとも言うな。
あの時は、準備、ってヤツかな?」
「準備?」
「ま、だから先生には色々あるわけよ?」
「大人の世界、ってとこですね?」
「大人の世界ってことかな?」
「難しそうですね?」
「うーん。子育てのが難しいかも」
「子育て?」
「そう。夜泣きとかご飯とか、」
"でも、可愛いんだよな♪"
横から見えた先生の顔は子どものことを想う親の顔つきだった。
私も、こんな親の子どもだったらもっと違う人生があったんだろうか。
そんなことを思ってしまった。
けれど、そんな気持ち以上に何か違う気持ちが私の心を支配していた。