先生と生徒


そして、薬指に光る指輪にただただ目を奪われていた。


この気持ちに気付くことはないと思っていた。



「酒井、どうかしたか?」


「いえ、何も…」


「なら、いいけど…

…こんな遅くなっても大丈夫なの?」


「遅いって言ってもまだ、7時じゃないですか?」


「…俺にとっては遅いのー」


「大丈夫です」

心配してくれる相手が、いないから。


「…何か事情有り?」

何かを察したのか先生が聞いてくる。


「まぁ、子どもの事情ってヤツですかね?」


「生意気な!

んま、色々あるんだと思うけどな…」


先生は切なげに前を見つめ、こう言った。


「…何か話してくれないと相手だって分かんないし、自分だって分かんないよ?

自分の言葉で自分の意見言わないと、人生損するぞ?」


最後には笑顔になり、私に言った。


人生、損?

そんなのとっくにしてる。




「帰りたく、ない」

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