市立第五中学校。

10番 齋藤剛士

恋人


俺は剛士。陸上部。
足はクラスで1番速い
勉強はできるほう

でも恋をしたことがない

俺のことを好きになってくれる子は結構いるけど
俺は好きになれない

周りは違う
同じ陸上部の康大は
町岡にべた惚れだし
哲平は良岡といちゃつき過ぎだし

恋って
色々めんどくさいんだな

そう思っていた
一年前までは。



その日は雨が降っていた

杉田の車に乗る尾野の姿を見ちまったけど
興味ないから黙っておいた

しばらく歩いていると
ピンク色の傘を持った
クラスメイトの矢沢を見かけた

矢沢の隣には
びしょ濡れの幼い子供がいる

矢沢は子供に傘を差し出し
「返さなくていいからね」
と言って走り出した

俺は矢沢を追い掛けた
このままじゃ矢沢が風邪を引いてしまう

「矢沢!」
呼び止めたが矢沢は気づかない

俺は足が速いから
すぐに矢沢に追いついた

「待てって」

矢沢の腕を掴むと

「やっ」

彼女は振りほどいた
拒絶されたと思って
ちょっと悲しかった

「斎藤君」

矢沢は顔を赤らませ
潤んだ目で俺を見つめる

俺はそういうの慣れてるけど
可愛いと思ったのは初めてだ
矢沢は無意識なんだろうけど。

「風邪引くぞ」

傘に入れると
矢沢は照れ臭そうに
「恥ずかしいよ」
と呟いた

…可愛い。

この気持ちなんだろう
これが恋?いやまさか
もうなんでもいいや。
よくわかんね
とにかくそばにいたい

「可愛いな」
「…え?」

俺に抱きしめられて
矢沢はより一層顔を赤らめた



俺どうかしてんのかな



雨で俺の頭冷やしてくれよ。

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