PALL MALL
鈍行列車
仕事を終えた俺は鈍行列車に揺られながら自宅へと向かう。
毎日同じ時間に同じ仕事をこなし、同じ時間に家へ帰る。
起伏のない平坦な毎日だ。
今年で36才。
だが、独身だ。
『早く結婚しろ』
『いい女紹介してやる』
『子供はかわいいぞ』
『つまらん人生を送るな』
毎日のように会社の上司から言われ続ける言葉。
いい加減うんざりしてきているが、確かに結婚は考えなければならない。
「結婚か…」
俺は誰にも聞こえないような小さな声でポツリと呟く。
「ここ…いいですか?」
不意に誰かが話し掛けてきた。声を聞いた限りでは女みたいだ。
「いいですか…?」
同じことをもう1度聞いてきた。
「…どうぞ。」
窓の外を眺めていた俺は女と目を合わせることなく、そう言った。
「すいません…。」
申し訳なさそうにそう言ってから席に座った女。
席が狭くなった。