こんぺいとう【2】
「全部知ってたら面白くないよ」
「いやいや、名前は一番隠しちゃいけないでしょ」
彼は笑う。
悔しいから、私も教えてあげない。
彼は私を「サクラさん」って呼ぶ。
私は彼を「キミ」って呼ぶ。
連絡先も、住んでるところも知らない。
聞いたら教えてくれただろうけど、なんとなく、それはしなかった。
平日のたった30分、暇な時間を共有するだけの関係。
とても不思議な、彼との繋がり。
「ピアス、開けないの?」
脈絡のない話題転換はいつものこと。
彼が持ってきたお気に入りだと言うバンドの歌詞カードから視線を移すと、4人掛けの向かいに座るその子の手がごく自然に私の耳に触れた。
「痛いの嫌いなの」
「ふーん」
聞いたわりに興味無さそうな返事。
「もう、桜はつけないの?」
そう言いながら私の耳から拐っていく。
「そんなに気に入ってたの?」
「だって、あれのおかげで仲良くなれたんじゃん」
「そうだけど」
「俺とサクラさんの最初の出逢い」
「あの時のキミは本当に怖かったよ」
「仕方ないじゃん、緊張してたんだもん」
「なんで?」
「さぁ、なんででしょう?」
コロコロ、手の中で私のイヤリングを転がしながら微笑う。
そんな彼の笑顔に、心臓が きゅん と音を鳴らした。
ほんの数秒、呼吸ができなくなる感覚。