こんぺいとう【2】





「明日もっかい見せてよ、あの桜」


そんな言葉を置き去りにして、彼は電車を降りていく。

窓の外で手を降る彼の悪がきっぽい笑みを見て、方耳のイヤリングを物質に取られていることに気がついた。


「……もう、」


吐き出した溜め息は、それでもどこか楽し気で。

まったく、どうしようもないなと自嘲する。


5歳も年下の、しかも高校生相手に私はいったい何を考えているのだろう。


彼が触れた耳が熱い。

……あぁ、本当にバカだ。





最初は違った。

彼のことをなにも知らなかったあの頃は、ただの怖い男の子としか思ってなかった。

イヤリングを拾ってくれたのはありがたかったけど、それ以上に関わろうなんて、考えてもいなかった、のに。

いつの間にか顔を合わせると会釈をするようになり、挨拶をするようになり、言葉を交わすようになり。

色んな顔を知った。

もっともっと、教えてほしいと思った。

彼に興味を持った。

名前も連絡先も、本当は知りたくて仕方ない。


でも、そんな勇気、私は到底持っていない。


好きな子がいたら?

引かれちゃったら?

もうこうしてお喋りすることもなくなるでしょ?


そんなの嫌だ。もったいない。


明日も、あさっても、彼が飽きるまで電車の中のお喋り相手を続けたい。


それ以上は望んじゃいけない。






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