ピクニックは三月に
秋の残り
せんせいピクニックに行きましょうと紀子は曖昧に言った。だめだだめだと体育科の青木秀吉先生は、黒い眼鏡をぎゅっとあげながら言った。どうして?と言って紀子は不機嫌そうに、窓ガラスの枠を小指の先でとんとん叩いていた。それでそこに埃が付いているのを見ると、ティッシュ、ティッシュ、と言いながら廊下に駆けていった。廊下にはともだちの恵がいた。恵はいつもみたいに茶色い髪にぺたぺたとワックスをつけていた。
ねえあなたどうやってそのワックス、拭くの。と紀子は尋ねた。
わからねえよ。と言う彼女はいつもみたいに怖かった。
怖い。と紀子は言う。泣きたくなる。
ティッシュだよ。と彼女は言った。それから天井をみあげて、この世界のすべてを軽蔑するみたいに唇を尖らせて、中指を立てた。彼女はアメリカ人の不良になりたいのだ。
一枚くれないかしら。紀子は控え目に、なるべく姿勢を折り曲げないように気をつけながら言った。外には十月の木枯らしがぴゅーーぴゅー吹き抜けていく。校舎は今にも崩れてしまいそうだったし、英語の文法書の切れ端で廊下はたえまないハイエナの巣みたいになっていた。締結東東京高校の秋はそのように深まっていた。紀子は恵からティッシュを受け取ると、してやったりとばかりにピースサインして、秀吉のいる教室に戻った。
ねえあなたどうやってそのワックス、拭くの。と紀子は尋ねた。
わからねえよ。と言う彼女はいつもみたいに怖かった。
怖い。と紀子は言う。泣きたくなる。
ティッシュだよ。と彼女は言った。それから天井をみあげて、この世界のすべてを軽蔑するみたいに唇を尖らせて、中指を立てた。彼女はアメリカ人の不良になりたいのだ。
一枚くれないかしら。紀子は控え目に、なるべく姿勢を折り曲げないように気をつけながら言った。外には十月の木枯らしがぴゅーーぴゅー吹き抜けていく。校舎は今にも崩れてしまいそうだったし、英語の文法書の切れ端で廊下はたえまないハイエナの巣みたいになっていた。締結東東京高校の秋はそのように深まっていた。紀子は恵からティッシュを受け取ると、してやったりとばかりにピースサインして、秀吉のいる教室に戻った。