白銀の女神 紅の王Ⅱ
「まだ子犬だからしょうがないわ。遊びたいのよ。」
人間の子供に泣くなということが無駄なように、子犬に走り回るなと言うのは難しい。
ひらひら舞う蝶を必死に追いかけるニコを見てクスクスと笑えば、ニーナもクスッと笑って口を開く。
「イースト地区から帰ってきたと思えば子犬を連れて帰ったんで驚きましたよ。」
「シルバは優しいものね、ニコ。」
キャンッ!とタイミングの良い鳴き声。
ほら、とニコも言ってるじゃない…という目でニーナを見れば、はぁ…と小さい溜息。
「ご本人はすごく不本意だという顔でしたけど…」
「そうなの?」
思いがけない言葉に、そう聞き返す。
するとニーナは即答する。
「はい、とっても。エレナ様が気づいていらっしゃらないだけです。」
あの時はあまり乗り気じゃなかったけど、承諾してくれた。
まさかそんなに嫌だったなんて。
そもそも……
「シルバはどんな時も顔色を変えないから分からないわ。」
いっつも眉間にしわを寄せて、少し機嫌が悪そうな表情をしているのは立場がそうさせているって分かってるけど……
シルバの場合、言葉数も少ないから言ってくれなきゃ分からないこともあるのだ。