LOVE*PANIC
「うん、取材が多いから、一気にここでやってもらったんだよ」
竣平は一歌の質問に笑顔で答えた。
竣平は人と話すときは常に笑顔を絶やさないような男だった。
一歌は竣平の話を聞いて、羨ましいというよりも、素直に大変だと感じた。
一歌の場合は、取材自体滅多にないし、仮にあったとしても出向いてもらうような立場ではない。
「いっちゃんは本当に綺麗な声してるよね」
竣平は一歌にスポーツドリンクを渡しながら言った。
スポーツドリンクの入ったペットボトルは冷えていて、それが買われて間もないことに一歌はすぐに気付いた。
恐らく、ボイストレーニングをする一歌の姿を見付け、買ってきてくれたのだろう。
「ありがとうございます」
一歌はスポーツドリンクに対して礼を言った。
ここ最近、歌声を褒められても素直に喜べなくなっていた。
例え褒められたとしても、売れていなければ意味のないことに思えてしまうのだ。
「そんな顔しないの」
竣平は一歌の心情を読み取り、彼女の方を軽く叩いた。
そして、苦笑いに似た表情を浮かべながら口を開いた。
「ま、その気持ち、俺も分かるけどね」
一歌はそう言う竣平の顔を見た。
彼がデビューしたのは、今から十年前だ。
だが、売れ始めたのは二年と少し前。
それまで竣平は、今の一歌のような状況に立たされていた。
一歌はそんな頃の彼をよく知っていたし、二人でよく夢を語っていた。
事務所で顔を合わせる度に、「いつかは大きいステージで」と話していたのだ。