LOVE*PANIC
歌うことが好きだと気付いたのはいつだろう。
一歌は未開封のペットボトルのラベルを見つめながらぼんやりと考えた。
母親の話では、一歌は物心ついた頃には既にいつも歌っていたということだった。
幼稚園で習った童謡、コマーシャルで流れる歌。
とにかく何でも歌っていた。
自分でも、気が付くといつも歌っていたように思える。
小学校に入る頃には、漠然とだが、歌手になりたいと思い始めていた。
その時は、テレビに映るアイドル歌手に憧れていたのだ。
中学生になると、本気で歌手を目指し始めた。
オーディション雑誌を片っ端から買い、世の中には沢山のオーディションがあることを知った。
実際、いくつか受けてみたりもしていた程だ。
一歌の両親も、そのときはまだ、娘がそこまで本気で歌手になりたいと言っているのだとは思わずに、事を静観していた。
文句を言うでも、止めるでもなく、ただ娘の様子を見ていたのだ。
だが、オーディションの結果は散々だった。
そして、ただ見ていただけの両親も、黙ってはいられないことが起きた。
一歌の成績の落下だ。
一歌は頭がいい、とまではいかないが、そこそこ成績はよかった。
だが、オーディションを受けるようになってからは、どんどんと成績は落ち、入れた高校はお世辞にも頭がいいとは言えない、私立の女子高だった。
それから、静観していた父親も一気に厳しくなり、オーディションを受けるなら、高校を卒業してからにしろ、と言い始めたのだった。
一歌はそれから、社長にスカウトされるまで、普通の高校生活を送っていた。
一歌は、両親には感謝していた。
頭ごなしに反対するわけではなく、今ではこんな娘を応援してくれている。