LOVE*PANIC
確かに、これからこのステージに現れる竣平だって、売れ始めたのはつい最近で、年齢でいえば一歌より上だ。
だが、女性アーティストの流行は、大体が若い。
特に、一歌のようにポップスを歌うなら尚更だ。
一歌は今、二十三歳だ。
ここがぎりぎりのラインかもしれない。
そう思えてならなかった。
一歌は先程まで高揚感に浸っていた気持ちが一気に冷めていくのを感じた。
「すみません」
一歌が自分の手元に視線を落としているとそう小さく聞こえ、視界の端に人の姿が入った。
隣の席の人が来たらしい。
やはり荷物を置かなくて正解だったな、と思いながら隣に目を向けると、そこにいたのは中原裕樹だった。
中原裕樹にこの世界を勧めたのは竣平だった、というのを一歌は思い出した。
だから、かれがここにいるのは何ら不思議ではない。
そもそも、同じ事務所なのだ。
だが何も、隣の席でなくともいいのにと思いながら、一歌は裕樹から視線を外した。
「あ、一歌さんだ」
一歌はその声にふと顔を上げた。
一つ上の席でサングラスを掛けた青年が一歌に向かって手を振っている。
一歌は一瞬彼が誰か分からなかったが、声ですぐに思い出した。
「響くん」
彼は田崎響、という超有名アーティストだった。
響と一歌は事務所は違うが、響が人懐っこい性格のため、親しくなったのだ。