LOVE*PANIC



最初は、餌をちらつかせる嫌な奴だと思っていたし、何より、いちいち一歌の神経を逆撫でしてきた。


でも、今は少し違った見方が出来る。


夕べの、裕樹のライブの時に言われた台詞がきっかけだ。


修二のあの言葉で、一歌の中に「プロ意識」が芽生えたのは確かだし、何より、修二はそういったものをきちんと持っている。


修二は一歌と同じ「芸能界」という場所にはいるが、フィールドが違う。


だが、持つべきものは一緒なのだ。


でも、一歌にはそれがなかった。


修二と出会ってから、まだ一ヶ月も経たない。


そして、この数日で、一歌を取り巻くものが目まぐるしく変化している。


繁華街に出ると、ビルの上に巨大な看板が掲げられていた。


女性化粧品の広告だ。


そこには魅惑的な表情で、一歌の方を見つめる修二の姿があった。


女性化粧品のCMを男性タレントが務めるのは最近では珍しくはない。


だが、修二の場合は特別だろう。


彼がCMに出演するようになってから、その化粧品の売上がぐんと伸びた、というのを、一歌は以前ワイドショーで見たことがあった。


修二はそういう人なのだ。


『甘い匂いに抱かれてみない?』


広告にはそんなキャッチコピーが書いてあって、そんな言葉をこの人に言えたら……という妄想を抱かせる程の、修二の色気に溢れた表情。


一歌も思わずそれに見とれてしまった。


『……ドライバーの皆さん、安全運転を心掛けて下さいね。
続いての曲は、なんと、本日活動再開を発表した、北村葉瑠さんの三年振り、待望のニューアルバムから。


say my name』


DJの流暢なトークが止むと、ミディアムバラードが、カーラジオから流れ始めた。



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