LOVE*PANIC
だが、修二は自分の顔を、そして一歌が歌手だと知っていた。
一歌は折角仕事に集中して、忘れかけていたことを思い出してしまった。
何故、修二は自分に「恋愛しよう」なんて持ち掛けたのだろう。
そんな重要なことを忘れていたのは、それを白紙にされたショックもあった。
最初の頃はそればかり考えていたはずなのに、今ではすっかり考えなくなっている。
だが、今更それについて考えても仕方ない、と一歌は溜め息をついた。
だって、白紙になった話なのだから……。
そこから離れなければ、集中は出来ない。
一歌はもう一度、脚本を開いた。
そして、耳から入ってくるメロディに頭の中で必死に言葉を乗せていった。
君と……、いや、君に……。
何度も同じ箇所をリピートして聴くが、それらしいフレーズは何も浮かばない。
時間を改めよう。
一歌はそう思い、耳にはめていたイヤホンを外した。
浮かばないのに無理矢理考えたところで、いい歌詞が出来るわけがない。
そう諦めると、再び一歌の頭の中には修二が浮かんだ。
どうしても離れないのだ。
一歌はイヤホンを弄りながら、ドラマが始まるの、楽しみだな、などと思いながら脚本をぱらぱらと捲った。
そんなふうに、全く関係ないことを考える始末だった。
一歌はもう一度溜め息をついた。