LOVE*PANIC
思ったように歌詞が書けず、レコーディングの日にちだけが近付いていった。
どうしても駄目な時は、プロのライターに頼むことにはなっているが、一歌には、どうしても自分で書きたい、という気持ちがあった。
一歌はペンを転がしながら、鼻唄でメロディをなぞる。
数え切れない程聴いた曲は頭にこびりついている。
あまりの歌詞の浮かばなさに、一歌は頭を抱えた。
その態勢になった時、突然携帯電話が鳴り響いた。
一歌は笹原からの歌詞の催促の電話だろうか、と少し焦り気味で携帯電話に手を伸ばした。
すると、表示されていた名前は、笹原のものではなく、修二だった。
一気に鼓動が速まる。
一歌は何の用だろう、と指を震わせながら、通話ボタンを押した。
「もしもし、いっちゃん?」
修二の甘い低音が一歌の耳に届くと、そこから全身が熱くなるのを感じた。
気持ちを自覚してから、こうして修二と話すのは初めてだった。
「はい」
一歌は思わず勢いよく返事をした。
「はは。いっちゃんはいつも元気だ」
修二が笑ってくれることが堪らなく嬉しかった。
「歌詞、出来た?」
浮上した気持ちも束の間、その言葉で、一歌の気持ちは一気に落ちた。
仕事の用事以外、ないのは当たり前だ。
「またです。何か悩んじゃって」
一歌が正直に答えると、電話の向こうで、修二が小さく唸り声を上げた。
まさか、自分に頼んだのを失敗だったと思っているのだろうか、という嫌な考えが一歌の頭を過った。
失敗だったなんて、思われたくはない。