LOVE*PANIC
例えば、言えば一歌が傷付くような理由。
修二は優しさでそれを言わないのだと思った。
更に泣きたい気持ちが押し寄せた。
それから、辺りをぐるぐると走るたけのようなドライブを続けたが、これといった会話はなかった。
一歌はそれを有り難く感じた。
口を開いたら、涙が溢れてしまいそうだったからだ。
「今日はありがとうございました」
一歌は停まった車の中でそう言った。
ようやく少しだけ、気持ちは落ち着いた。
「どういたしまして」
修二は色気を含んだ笑顔で答えた。
恐らく、何人もの女性達が、あっさりと修二に恋に落ちているだろう、と一歌は修二の笑顔を見ながら思った。
修二には、それだけの魅力がある。
決して、自分だけではないはずだ。
それなら、告げたところで、彼は何も困らないのではないだろうか。
何故なら、慣れているはずだから。
一歌は唇を結んだ。
上手くあしらったり、傷付けない断り方を、修二なら知っているはずだ。
なら、伝えてしまいたい、一歌はそう思った。
「あたし、浅田さんのことが好きです」
一歌はさらりと告げた。
自分でも驚く程、緊張していない。
一歌が言葉を終えた瞬間、葉瑠の歌がラジオから流れ始めた。
修二は何も答えずに、黙ったまま前を向いている。
何度聴いてもうっとりする歌声が、二人の沈黙の間に漂う。
「……俺の恋人」
あまりの沈黙に耐えかね、一歌が葉瑠の歌声に身を委ねようとした時、修二が口を開いた。
「え?」
葉瑠の歌は最後のサビに入り、更に艶を増した歌声になった。