ハッピーエンド
なおも名残惜しそうにする栄子を熱烈な抱擁で納得させた田中は表に出て夢中で肩や胸のあたりを手ではたいた。
そうでもしないと栄子の体臭がまとわりついて離れない気がする。

時計を見ると朝の8時だ。
今から行けば十分間に合う。
駐車場に止めた車に向かいながら田中はいつ栄子に切り出そうか、そればかりが脳裏を駆け回っていた。

田中の仕事は栄子の相手だけではない。
一応真面目に外回りもする。その中で得た貸し付けの中で、誰にも言えない2億の焦げ付きがあった。

もはや不良債権どころではない、完全な田中の失態である。
田中が20代後半の頃、栄子と知り合った直後に行った業務機器リース会社への融資であった。

担保もとったし社内審査も通った。
田中にとって初めて大口の融資だっただけに、少し舞い上がっていたのかもしれない。
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