月物語2 ~始まりの詩にのせて~
―陽春?
どこかで聞いた名だ。
「伯升、いるんでしょ?」
不意打ちに名を呼ばれて、思わず手を滑らせた。
変な着地になる。
降って出た男に、花英が仰天していた。
「花英、彼は…」
「私は血死軍に所属している、伯升だ。
花のくせに、気配に気づかなかったのか?」
花英が俯く。
「あまり、そっちの方は得意でなくて。」
鼻で笑ってやると、王にぎろりと睨まれた。
「花英、来てくれてありがとう。
あなたに頼みがあるの。
私にはまだ信頼できる人が少なくてね。」
「信頼?」
花英は言って、何かに気づいた。
真剣な顔つきになる。
「私は陽春と約束しました。
あなたただ一人の力になると。
何なりとお申し付けください。
この命…」
言葉が途切れた。
礼が屈んで花英の手を取ったのだ。
はたまた花栄の目が見開かれる。