月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「獅子殿!そろそろ。」
花英が上から呼んだ。
「じゃ、頼むぜ。
そのうち様子見にくる。」
男は年齢の割に軽々と彩夏を受け取ると、そのまま城外の林に姿を消した。
「今の方は?」
「俺の師匠。」
「何と!
ぜひ顔を拝みたかったものです。」
「いやー、そんなたいしたもんじゃないって。」
「しかし、彩夏殿を任せて大丈夫なのですか?」
今、彩夏は気が触れている。
「だからこそよ。
親父のとこには親のいねー子どもがたくさんいてな。
そんなとこで、死のうなんぞ考えねーだろ。
むしろ、やることがいっぱいある。
自分の役割があった方がいいだろ?
ゆっくり、自分を取り戻していけばいいさ。」
獅子がにやりと笑うと、花栄も笑い返した。
お互いの表情がはっきり伝わるほど明るい夜だ。
二人は、城壁から満月を眺めた。