月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「何!
彩夏にも逃げられただと!」
杜廷尉は怒鳴った。
だが、そこには怒りがないように感じる。
「王が、二人を脱獄させ、さらに自分も逃げたと言うのか。」
獅子がごくりと唾を飲んだのがわかった。
仕組んだとばれているのではないだろうか。
だが、まだ確信はないはずである。
「お前がついていながらか?」
「獅子殿は、祝融様の術にはまっておられました。」
杜廷尉に目を向けられた。
突き刺さるような視線だ。
獅子が気圧されるのもわかる気がする。
「私も、獅子殿の部下と張湯の元に向かったのですが、すでに…。」
「もういい。
とにかく、うちからも兵を出す。
衛兵たちは何をしておったのだ!」
怖い。
二人とも同じ事を思っていた。