月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「前を向いてください。」
張湯が礼の綱を持ちながら言った。
馬上でバランスをとるのは案外難しい。
だが、礼のせいで明らかに速度は出ていなかった。
広大な土地を駈けていることがせめてもの救いである。
城下町は確実に通れないので、回りこんで兵が薄手の州境を抜けるしかない。
「隊長!
追ってきています。」
「巻けるか?」
「やってみます。」
そのまま伯升が離脱した。
一刻駈けると、遠くで煙が上がっていた。
多分伯升だろうと思ったが、礼はそれどころではなかった。
尻が擦れて半端なく痛いのである。
二刻して、伯升が戻ってきた。