月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「白煙は全て使いました。
あとは逃げ切るしかありません。
いざとなれば。」
礼は二人を見ないようにした。
ここで捕まった者は間違いなく処断される。
礼も朱雀も王宮で庇うことはできないのだ。
伯升を犠牲にするつもりはない。
―大丈夫。
礼は言い聞かせた。
―もう、慣れてきたじゃない。
呼吸に集中する。
「張湯、綱を離して。」
礼は落ち着いた声で言った。
「何を…」
「ここで捕まる気も、誰かを犠牲にする気もないわ。」
前を走っていた朱雀が、後ろに下がってきた。
「伯升、前を走れ!
礼、我々が挟んで駈けます。」
朱雀が微笑した。