月物語2 ~始まりの詩にのせて~



「白煙は全て使いました。
あとは逃げ切るしかありません。
いざとなれば。」



礼は二人を見ないようにした。


ここで捕まった者は間違いなく処断される。



礼も朱雀も王宮で庇うことはできないのだ。



伯升を犠牲にするつもりはない。



―大丈夫。



礼は言い聞かせた。



―もう、慣れてきたじゃない。


呼吸に集中する。



「張湯、綱を離して。」



礼は落ち着いた声で言った。



「何を…」



「ここで捕まる気も、誰かを犠牲にする気もないわ。」



前を走っていた朱雀が、後ろに下がってきた。



「伯升、前を走れ!

礼、我々が挟んで駈けます。」



朱雀が微笑した。




< 132 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop