月物語2 ~始まりの詩にのせて~
礼は、武則天から真実を聞かされていたので、朱雀の焦りが何となく伝わってきた。
だが礼もまた、朱雀に何と声をかけてよいのかわからなかった。
どれほど沈黙が流れただろう。
二人には永遠とすら思える時間だった。
「…たっ、ただいま」
やっとのことで、礼が口を開いた。
朱雀の肩が、ぴくりと揺れる。
どうでもよい言葉。
そんな言葉を朱雀は欲していない。
「あなたのせいじゃないわ。」
朱雀は目を見開いた。
それは、朱雀が求めていた言葉だった。
やっと言えた言葉に、礼自身も安心する。
王は丸ごと受け入れてくれたのだと、朱雀は思った。
“己の役目”を果たせず、王に残酷な役目をなすりつけた自分を。