月物語2 ~始まりの詩にのせて~



自分と駱駝の影の中で、張湯は跪いたままじっとしている。



不思議な気分だった。



嬉しさと、寂しさが入り交じる。



受ければ、朱雀のような主従関係を結ぶことになるのか。



だが、礼の中に選択肢は無かった。



「受けるわ。」



礼は静かに言った。



信頼できる者が必要だった。



朱雀は駱駝を降り、張湯の前に立った。



「顔を上げろ。」



張湯は顔を上げ、一度礼を見てから朱雀に視線を戻した。



「お前に、忠誠の証を」



朱雀は、張湯の額に手をかざした。



―風?



自分たちのいる空間だけが切り取られたように、光風に包まれた。



張湯の額が、光で燃えている。



礼は、ごく自然に張湯に手を伸ばした。



張湯もそれに応えるように手をさしのべてくる。



指が触れ合った。



その瞬間、全ての光が張湯の額に凝縮した。



「あっ!」





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