月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「この方には触れることすら許されないのですね。」
芥だった。
表情は闇にとけ込んでよくわからない。
「何のつもりだ。」
張湯が言った。
目覚めた礼が、朱雀の腕を押しのけようとする。
「私が守ります。」
そう礼の耳元で囁いて、朱雀は腕に力を込めた。
礼は大人しく腕の中に収まっている。
「何のつもりだと言っている。」
張湯たちの剣にひるむ様子はない。
芥は笑っているのだと気づいた。
「何が可笑しい。
礼には、指一本触れさせない。」
「さて、それはどうでしょう。
お姫様、村人たちに本当は何があったのか知りたくはありませんか?」
礼は黙って頷く。
芥は何を企んでいるのか。
「彼らの村は、小さいといっても300人以上は住んでいてそれなりに生計の整った村でした。」
「聞いてはなりません。」
張湯の横顔に、若干の焦りがある。
「まて。」
そう言って、朱雀の腕の中から礼は出た。
朱雀の心の中から何かがこぼれ落ちた気がする。
「二人で話したい。」
「「何を!」」
張湯と同時だった。
「ははははは。
怖くはないのですか?」
芥は明らかに笑っていた。
礼はただ芥を真っ直ぐ見つめる。
「殺しはしませんよ。
あなた方三人は甘そうですから、私が事実をお教えしようと言うだけです。」