月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「砂漠に入るのは久々です。」
宿舎で、ポツリと花英は漏らした。
灯りをつけると暑いので、星明かりで過ごす。
「お前、子州か丑州の出身か?
それにしては肌の色が…」
口にしてはっとした。
「いいのですよ。
隠すつもりもありませんし。」
花英は気にする風もなく笑った。
その表情が、夜の砂漠のように冷たい。
身売り。
獅子の頭に浮かんだのはそれだった。
広大な砂漠地帯では、違法行為が日常茶飯事に行われている。
軍や役人が取り締まりきれないのだ。
それは土地が広大だからという理由だけではない。
国の怠慢。
一番の原因だ。
腐り始めはやはり熱帯地方からなのか。
「もうすぐ新月だな。」
見たままの光景を口にしていた。
我ながら下手な話の逸らし方だ。
「姫が心配です…
赤様の力が薄れる時ですから。」
意外に食いついてきた。
「早くお会いしたい―…」
そう言った花英は、憂いを帯びている。
「それを渡すためか?」
「そうですね。」
「でもなー、追いついちまえば、俺たちは連れ戻さなきゃならねーんだぞ。」
そう口にして、自分は王を連れ戻したくないのだと気づいた。
―なぜだ?
「わかってます。
その時の策はすでに。」
「―っておい!
お前、俺にいったい何を…」
獅子の顔を見て、花英はくすくすと笑った。