月物語2 ~始まりの詩にのせて~
翌日、砂漠に入る手前の小さな村に寄る、と花英は言った。
花英は多くを言わない。
その行動の意味は後になってよくわかる。
村に寄るのも何か目的があってのことだろう。
「いました。」
そうささやいた花英の視線の先には、塩のような白馬がいた。
「姫の馬か?」
「おそらく。
他に立派な馬が三頭いますし。」
やはり、この男の知力はすごい。
「我々も、馬を預けましょう。」
そう言って、別の厩へ行って帰りには駱駝を買ってきた。
「旦那方、これからどちの村へ?」
駱駝貸しの店主が言った。
「千日紅(せんびこう)だが。」
花英が答える。
本当は唐綿(とうわた)だ。
「ならよかった。
いやね、ここいらからだと、唐綿に行くやつも多いんだが、3日ほど前に賊に襲われて壊滅状態よ。
まっ、千日紅なら今のところ問題ないがな。
あそこは自警団がいる。」
花英は顔色一つ変えずに聞いていた。
「旦那方も気をつけなされ。
兵はあてにならん。」
店主は日差しの強い空を苦々しく見ると、奥へと引っ込んでいった。
途端に、隣にいる花英が青くなる。
「急ぎましょう。」