月物語2 ~始まりの詩にのせて~
―――――――――――――――――――――――――――――――
「なんだこれは…」
死体の山だった。
暑さで腐敗臭がひどい。
殺されているのは殆どが若い男で、女は連れて行かれたのだろう。
子どもはすでに売られたのかもしれない。
だが、花英にとってまず大事なのは王の安否だった。
もうすでに日は落ち、辺りは闇だ。
それでも王がいれば見つけられる自信はあった。
「こっちにはいない。」
別の方を見に行った獅子が、戻ってきて言った。
―…何だ?
獅子の背後に何かいる。
背中から少年がひょこりと顔を出した。
「母親が隠したらしい。
母親の方は死んじまってた。
少し衰弱しているが、元気だ。
ただ、ショックで喋れねー。」
おそらく、この子は母親の死を間近で見たのだろう。
孤児。
その子を見ていると、花英は複雑な気持ちになった。
「水を。」
花英は笑えているのかわからなかったが、気持ちだけ微笑んだ。
少年は、獅子にしがみついて花英を怖がった。
獅子から滲み出る安心感は、この国では共通して感じるものらしい。