月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「寝たか?」
「はい。」
「随分手懐けるのは早かったな。」
隣町に着いたのは、深夜になってからだった。
宿屋はすでにしまっていたので、空き小屋を見つけて寝床にした。
子どもは好きだ。
宮中にいる子どもたちを、陽春とよく遊んでやった。
「賊は、丸葉婁紅に向かっています。」
獅子は黙って聞いている。
「金品と女たちは献上品、子どもは売って金にするのでしょう。
どうやら丸葉婁紅にいる賊の頭領は、それを入団の条件にしているようですし。」
「じゃー何か?
丸葉婁紅は今賊取りホイホイってことか?」
「は?
とにかく、王が丸葉婁紅に入る前にお止めしなければ。」
「丸葉婁紅はどうする?」
嫌な質問だった。
「やっぱお前も王が第一か。」
獅子の言葉に切り裂かれた気分だった。
寝台には少年が泥のように眠っている。
一瞬、少年と自分の幼少期の姿が重なった。
自分が王に執着するのは何故なのだろうか。
陽春がいたからではないのか?
「千日紅なら、真逆に来ちまったな。」
「仕方ないでしょう。
ここが一番近い村だったのですから。
それに、うまく行けば明後日には王に追いつけます。」
「そうか。」
獅子はそれ以上何も聞いてこなかった。