月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「なぜ、お前は楊太僕のそばにいない。」
「私、一人ではだめだと、楊太僕はお考えです。
それゆえ、柴秦様をお待ちしておりました。」
顔は見えないが、その口調は自分一人でもよかったと言いたげだ。
「しかし、私一人いたところで…」
「三日、柴秦様と私は同じ担当場所です。
その間に作戦をお立てくださいますよう。」
青年は、後ろ手で紙切れを渡すと、自然に背後を離れた。
それが気配だけで伝わる。
―…三日。
急速に頭が回転し始めた。
楊太僕は自分を待っている。
労役に着いてから初めて、夕日を見た。
真夜中、牢獄の中で紙を開いた。
転々とある灯籠の光を頼りに、紙を開いた。
地図だ。
どうやら、この砦の地図らしい。
印が二つあった。
小さい部屋の方が楊太僕、広間が頭領の場所だ。
―どうする。
ここには二人しかいない。
二人でどうやって助け出せばよいのか。
撹乱する者たちが欲しい。
しかし、それは望めない。