月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「あの惨劇を見たとか。」
「あぁ。
酷いもんだった。
町は血で赤いのか、俺の血が上って赤いのか、わかりゃしねー。」
芥は息をつくと、酒釜をあげて微笑んだ。
獅子は苦笑し、部屋の端で眠る少年を見た。
「彼は?」
「ガキは唐綿で拾った。」
「そうでしたか。
親は……―。
いえ、まだこんなに幼いのに、辛いでしょうね。」
芥は二つの杯を渡すと、それぞれに酒を注いだ。
獅子は一気に飲み干すと、芥の杯にも注いだ。
花英は飲むような気分ではない。
ちびちびと酒を口に運ぶ。
「ここに置いて行かれますか?」
芥はごく普通に聞いてきた。
「こいつ次第だな。
だがその前に、こいつ声が出ない。
親を目の前で殺された衝撃でな。」
芥は納得したような素振りをする。
「そうでしたか。
それでも、ここには仕事がありますよ。」
獅子は黙って杯を見つめた。
芥に返事はしないだろう。
それがこの男の凄いところだ。
全て相手の意志で動かし、それでいてまっとうな評価を容赦なく下す。
自分は獅子の目にどのように映っているのか。
明日になれば邪念も消えるだろう。
花英は残りの杯を煽った。