月物語2 ~始まりの詩にのせて~
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東苑は、子どもたちに囲まれた老人をこっそり物陰から伺っていた。
「そんなところにいらっしゃらず、中にお入りください。
大したものはありませんが。」
東苑は突然の声かけにひっくり返りそうになった。
「おっと失礼。
わたしは…ー
「猿子(えんし)殿ですね。」
老人が暖かい微笑みを返した。
子供たちは一瞬こちらに注目して、また遊び始める。
「わたくしは、東苑と申します。」
「あぁ…あなたでしたか。
獅子が大変なご迷惑を…ー
「何なにー!
獅子兄の知り合い?」
獅子の名を聞いた少年が走ってきて尋ねた。
「そうじゃ。」
「獅子兄はどこ?
一緒じゃないの?」
「すまんのぉ。
獅子は今遠くにいるのじゃ。
また今度のぉ。」
そう言うと、少年は興味を失ったらしく、子供たちの中に溶け込んでいった。
「獅子のことなら心配はありますまい。
あなたがいらしたのは、彩夏殿のことでしょう?」
猿子は若葉のような子供たちを眺めながら、言った。
あの獅子がここで育ったのかと思うと、不思議な気持ちになる。
「さぁさ、汚いところですが、お上がりください。」