月物語2 ~始まりの詩にのせて~


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朱雀は茂みの中にいた。



隣には珍しく緊張の面もちの礼がいる。



「しくじるなよ!」という伯升の言葉と同時に街道にでた。



ここからは、礼の命がかかっている。



作戦は入念に立てた。



街に詳しいものがいたため、現地調査も難なく済んだ。



ただ、賊の塞の地図だけが手に入らなかった。



思ったより警備に隙がなく、伯升が潜り込むことさえ出来なかったのだ。



軍のものが捕らえられ、利用されでもしているのだろうか?



中に入る手順はこうだ。



まず、礼を献上物とし、全員が賊の入団許可を得る。



朱雀は礼の付き人である。



賊徒は人数が増えるにしたがって、組織化を行なっている。



張湯、伯升、村人は、おそらくそれぞれに配属させられるが、それには時間がかかる。



二日、いや、一日で移されるだろう。



それが期限だ。



楊太僕を見つけ出し、脱出させる。



先に潜入した獅子たちとの合流は、合図を使った時のみ。



合図は塞の中にある鐘を、村人の一人が鳴らすことになっている。



朱雀は、縄でつながれた礼を見ながら、このまま連れて逃げたくなった。



なぜ、王がこのような危険を冒さなければならないのか。



なぜ、礼は自らを犠牲にしようとするのか。



方狼によって、礼は汚されるのだ。



―私は、何を躊躇っている。






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