月物語2 ~始まりの詩にのせて~
朱雀も礼の前に立ちはだかる。
「何をしている。」
建物の奥から、若い男が出てきた。
門番2人が慌てて敬礼する。
さしづめ、幹部的地位の人なのだろう。
「入団希望者か?」
男の話し方も、身なりも、とても賊には見えない。
「左様にございます。
献上の品とともに、参りました。」
張湯たちが跪く。
「ほう。
それで、貴女の名は?」
「言わぬ!
言えば、お前たちはそれを利用しよう。
早よう縄を解け。
わらわにこのようなことをして、ただで済むと思うな!」
男はにこりと笑って、従者に縄を解くよう命じた。
「名も無き姫、この者は従者で?」
「そうじゃ。
そやつにも危害を加えてみろ。
わらわはここで死んで、こんな場所、叩き潰してくれようぞ。」
礼は、朱雀の安全をも確保する。
どんな状況にあっても、作戦を遂行させようというのだ。
男が軽快に笑った。
何か、この男にも介のような警戒心を抱かせるものがある。
腹の中が読めない。
それほど怖いものは無い。
「では、中へご案内いたしましょう。
従者様は、武器の点検だけさせていただきます。
そなたたちは、明日にも配属を通達する。」
男は従者に朱雀を点検させる。
「入団させていただけると?」
「実に、面白い献上品だからな。」
朱雀は振り返り際、男の顔を見てぞっとした。
賊よりも、もっと恐ろしい、深く冷たい表情に冷や汗が流れた。
礼の手をやさしく取って歩く男を、朱雀は息の詰まる朦朧とした状態で眺めていた。