月物語2 ~始まりの詩にのせて~



その後、柴秦は考え続けていた。



この塞は、おかしい。



あまりに、軍規的すぎる。



獅子らの潜入で、いくらか思考に余裕が出来た。



己の役割は何だ。



自分には、考えることしかできないのではないか。



冷静な観察と分析こそ、今すべきこと。



軍の裏切り。



それはやはり考えられない。



では、この違和感は何なのか?



高進は、書き置きを翌日取りに来た。



二日経つが、獅子とは会えずにいる。



「今日、また20人ばかりやってきたらしいぜ?」



見張り役が話しているのが聞こえてきた。



「馬鹿なやつらだな?
よっぽどの腕がなけりゃ、労役に回されるのによー。」



「というか、これ以上は収容できないぜ。」



「そんなことより、俺、すっげー美人見ちまってよー。
方狼様ん所に…ー」



ここは塞ではない。



監獄だ。



自分は捕らえられ、労役をさせられている。



しかし、ここにいる殆どの者が、同じく労役を強いられている。



彼らは、入団希望者のはずだ。



ー方狼…
いや、あいつだ。
あの、栄楽という男、一体何者だ?



この脱出劇は、思っていたよりもずっと難しいものかもしれない。



柴秦は背筋が凍りつくのを感じた。





< 240 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop