月物語2 ~始まりの詩にのせて~
その後、柴秦は考え続けていた。
この塞は、おかしい。
あまりに、軍規的すぎる。
獅子らの潜入で、いくらか思考に余裕が出来た。
己の役割は何だ。
自分には、考えることしかできないのではないか。
冷静な観察と分析こそ、今すべきこと。
軍の裏切り。
それはやはり考えられない。
では、この違和感は何なのか?
高進は、書き置きを翌日取りに来た。
二日経つが、獅子とは会えずにいる。
「今日、また20人ばかりやってきたらしいぜ?」
見張り役が話しているのが聞こえてきた。
「馬鹿なやつらだな?
よっぽどの腕がなけりゃ、労役に回されるのによー。」
「というか、これ以上は収容できないぜ。」
「そんなことより、俺、すっげー美人見ちまってよー。
方狼様ん所に…ー」
ここは塞ではない。
監獄だ。
自分は捕らえられ、労役をさせられている。
しかし、ここにいる殆どの者が、同じく労役を強いられている。
彼らは、入団希望者のはずだ。
ー方狼…
いや、あいつだ。
あの、栄楽という男、一体何者だ?
この脱出劇は、思っていたよりもずっと難しいものかもしれない。
柴秦は背筋が凍りつくのを感じた。