月物語2 ~始まりの詩にのせて~
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栄楽は考えていた。
この姫の処遇をどうすべきか。
彼女の情報は、かの男から入っていた。
まさか、ここにやってくるとは思わなかったが。
十二貴族か、それと同等の身分に違いない。
しかし、かの男でさえまだ彼女の正体を見極められずにいる。
失踪ならば、大がかりな捜索がなされているはずだ。
奇妙だ。
内密に捜索させているのか?
高貴な身分であるのに、彼女の身元が知れないのは厄介だ。
方狼は、必ず彼女を欲しがる。
かの男でさえ、利用しようとはしなかった美貌。
彼女が何者で、何をしにここへ来たのか、それがわからない今、方狼を抑える手立てはない。
従者を拷問にかけるか?
世話をさせる者ならば山ほどいる。
されど、従者を殺せば彼女がどう出るかわからない。
逆は?
彼女を方狼の下に連れて行けば、方狼が手を出す前に従者が阻止するのでは?
手を出す前に止められるか、それは殆ど賭になってしまう。
楊太僕は、身分正体がわかっていただけに保護できた。
人質としての価値が、彼女の命を保証する。
そして、我々の計画も左右する。
「さて、貴女様は捕らわれの身ということをおわかりですか?」