月物語2 ~始まりの詩にのせて~
彼女はちらりと栄楽を見ると、すぐにそっぽを向いた。
従者は動かない。
武器は持っていないようだが、落ち着いているところを見ると、術者の可能性が高い。
「お姫様。
あなたを守るためにも、名を教えてはいただけませんか?」
栄楽は彼女の手を取り、口付けた。
従者を横目で見たが、動じる気配はない。
相当な自信があるのか?
「頭領が貴女様をどうするか、察しはおつきでしょう。
なぜ、拒まれる。」
彼女の瞳は強く深い。
何か遂げようとする意志のある目をしている。
「どうか、名を。」
この部屋に連れてきてから、彼女は一言も発していない。
何か、この地に目的があるのか?
有り得ない。
貴族の、しかも、こんな幼い姫が何をしようというのだ。
ートントントン。
「軍師様、方狼様がお呼びです。」
扉の外から護衛が声をかけてきた。
ーここまでか。
栄楽は奇妙な不安を抱いた。
暫くは方狼を言い含められる。
いちを、方狼には孫四娘も付いている。
あの女も、自分の仕事くらいするだろう。
後は、彼女の運命に任せるしかない。
栄楽は姫と従者を残して、方狼の下へ向かった。