月物語2 ~始まりの詩にのせて~
栄楽に権限はない。
ー何と好色な男だ。
だが、忠告の意味はわかっているか。
聞く耳を持つだけ、マシというもの。
姫の気性からして、方狼を逆撫でしなければよいが。
栄楽は姫と従者を通した。
「美しい!
何と美しい!!」
方狼を前にしても、彼女が怯むことはないようだ。
「跪かず、その誇らしき姿。
気に入った!
名は、やはり教えられぬか?」
方狼はいやらしい笑みを浮かべながら言った。
姫はじっと目を据えている。
「誰が貴様なんぞに名を教えよう。
この従者より、お前の身分は卑しいというに。」
ひやりとすることを、姫は言い放った。
方狼は顔を真っ赤にしている。
まずい。
「軍師、従者は殺してもよいか?」
方狼は言いながら剣を抜いていた。
「お待ちくださいませ!」
栄楽は慌てて止める。
「従者を殺せば、わらわの死を持ってお前を八つ裂きにしてやる。」
姫はどこまでも強気だが、力では適うはずもない。
ー世間知らずが!
「今、事を荒立てるは、得策ではありません。
従者は、あの者と同じ部屋に。」