月物語2 ~始まりの詩にのせて~
「酌くらいなら。」
「ほう。」
方狼が口元を歪ませる。
ーやはり。
栄楽は確信した。
彼女は偽りの姫だ。
従者である彼こそが本物の主。
失踪は男を対象に捜し直さなければならない。
名は、いずれわかるだろう。
今は、この女を利用することだ。
だが、”あの男”が見誤るなど珍しい。
「よし、酒を持て。
従者は置いておくがよい。」
姫は素直に近づいた。
従者の指先が、微かに動く。
恐怖で声もでないか。
方狼は姫を横に座らせた。
「さあ、もっとこっちだ。」
方狼が姫の肩を抱き寄せる。
「栄楽、もう下がれ。」
栄楽は若干の不安を残すものの、出て行くしかなかった。
ーさて、王子様はどうなさるか?
去り際にちらりと従者を見た。
嫉妬と怒りが渦を巻き、表面は穏やかだが底は荒れ狂った海流のような顔をしている。
栄楽は、自分の推測に引っ掛かりを覚えた。
ー違う。
何かが違う。
違和感を感じながらも、栄楽はこの後のことを方狼に任せたのだった。