月物語2 ~始まりの詩にのせて~
思えば、あんなに怒鳴られたのは、初めてだったかもしれない。
矜持の高い青年であったから、“いい子”で優秀な子どもを演じてきた。
怒られるようなことも、これまでなかった。
ただただ褒められたくて、尊敬する人に認められたくて、気づけば官位もへったくれもない仕事をしていた。
それでも、青年は幸せだった。
その人のために尽くすことが、生きがいだった。
家族から離れ、民から慕われるあの人の隣で、ずっと働いていた。
そして、当然のようにこれからもそれが続くのだと思っていた。
彼から巡察の命が下った時、青年は初めて反抗した。
ここ数年、賊徒が活発化している。
小さな村々を襲っていた賊が、その規模を拡大し、街町も襲撃するようになっていた。
青年たちが仕事場にしていた街も、標的の例外ではない。