月物語2 ~始まりの詩にのせて~
1章 白紙撤回 ~天界の真実篇~
―1―
―――黄国。
再び、礼は黄国に滞在することとなった。
今回は“身体もあり”、二・三日で送られることになっている。
正直、母親を想って泣ける自分に、礼は驚いた。
武則天(ぶそくてん:土の君,黄国の長)の姿を見た時、母親と重なって、思いしれず涙を流したのだ。
母親と武則天の外見は、似ていない。
武則天の方が、年相応のつやっぽさがあって、よっぽど美しい。
“本当の私”は、母を思って泣きたかったのだと、礼は思った。
“本当の私”とは何なのだろ。
他者からみた私や、自分で考える私も、おそらく“本当の私”ではない。
心のもっと奥深くにある、という気もするが、あっさりと表面に出てくる嫌な自分が案外そうなのかもしれない。
考えても堂々巡りをするだけだ。
礼は考えるのを辞めた。
母親のために泣けたならそれでよかった。