狂愛
そう思うのに、一度立ち止まってしまった身体はうまく動いてくれない。
アイツはそれを見逃さず、あたしの腕を掴むと目の前にあった暗い空き地へと引きずった。
空き地の奥にある草木が生い茂った、人通りからは死角になる場所に再びあたしは投げ出された。
そして、アイツはすかさずあたしに跨った。
「いやっ、止めて!!」
「はぁっ…はぁっ……」
初めてこんな近距離で対峙するアイツは。
男の顔面は、黒いマスクのようなもので隠されていた。
「あんた誰よっ! なんでこんなことっ」
全て言う前に、男の少しだけ見えている目つきが変わった。
あたしを舐めるように見下ろす眼。
そして更に荒くなる息遣い。
それは、走った為の疲労感からか…。
それとも……。