それだけでよかった
いつからかははっきり覚えてない。
私たちふたりは、お互いがお互いに知らないことなんてないんだ。
でも、何ひとつってことはない。

冬樹が知らない、私。

冬樹を好きな、私。

いつからかははっきり覚えてない。
でもいつの間にか、この苦笑が堪らなく好きだった。

もちろん、理由もわからない。

「夏野のクラスは2階か。だったら昼こっち来いよ。」

「なんで」

「どうせ友達作るの、時間かかるだろ」

「どうせって何よ」

「俺は間違っちゃいないよ」

不器用で不親切な優しさ。
それを形にしたようなのが、冬樹だった。

私の、初恋のひとだった。

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