モノクローム
初めて乗る飛行機は意外と広く、思ってたより怖くなかった。
東京に着くまで、お互い黙ったままだった。
ただ呼吸をして、どこか遠くを見つめて、そうする事が必要みたいに…


それは飛行機を降りてからも続き、ホテルまで行く間や部屋に入ってからも変わらない。
あんなにはしゃいでた彼が全く別人に見えた。

夕闇を広げた窓越しに腰を掛け、タバコを吹かす横顔をオレンジ色の光りが縁取り、輪郭を滑らかに映し出す。
思わず手を伸ばしかけた時。




「東京タワー見に行こっか」


「…え」


「0時前に見に行こ」



彼は引っ込めかけた手を取り、眺めながら言う。



「噂なんだけどさ、0時に東京タワーが消灯する時、願い事すると叶うんだって」




その言葉に耳を疑った。
自分も噂で聞いてた事はあるけど、まさか彼の口から聞くとは思わなかった。

彼は驚いて戸惑う私の手を引き、部屋を出て行く。




「どこ行くの?」


「飯、ここは飯が自慢なんだって。部屋は最悪だけど」




この時、彼の口調が少し変わってる事に気付いた。
上手く言えないけど、優しいような、それでいて心地よいような…


彼がシロと言う女の子だった頃に、私が想像してた声を聞いてるみたいだった。
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