モノクローム
手紙なら大丈夫。

その言葉を聞いた私は、直ぐさまコンビニに向かった。
けれど、それを手にしただけで棚に戻して自宅に帰った。

何を書けばいい?


伝えたい事や話したい事は山ほどあるのに、いざ書くとなると感情的になりそうで躊躇ってしまった。



程なくして夫が帰宅し、いつものように食卓を囲み、無言のまま食事を口に運ぶ。



「早かったね…」


「………」


「年末は忙しいの?…」


「………」




まるで親の機嫌を伺う子供みたいに、一方的な会話だった。
夫はテレビと新聞に目を配り、時々箸を浮つかせながら食事をして、一度たりとも私を見ようとはしない。

あの事があったから…

違う。

前からそうだった。
結婚して三ヶ月程はそれなりに世間一般の仲のいい夫婦だった。
それが半年もしない内に夫は変わり、段々と会話が無くなって、ついには応えてもくれなくなった。

それでも…



「最近、調子はどうだ?」


「…大丈夫」


「そうか…」




それでも、些細な優しさを感じる時もあった。
その些細な小さな出来事があるから、ずっとそれだけを信じて暮らしていた。

それを物ともせず、打ち砕いたのは他の誰でもない夫の方だった。
< 73 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop