モノクローム
離婚してから二ヶ月程経ち、カレンダーは三月を記していた。

二ヶ月の間、私は必死で仕事を探し、[主婦だった]と言う理由で断られながら、やっと仕事を見つけ、後は住む所を探すだけの状況だった。


あちこち荷物の欠けた部屋で独り、テレビを見ながら住宅情報誌を眺め、ふと窓に視線を上げる。
もう三月だと言うのに、外にはまだ雪が降っていた。



そう言えば、手紙書いてないな…



長すぎる冬のせいで、あの時何を書こうとしてたのかも忘れてるくらい、久しぶりに思い出していた。

漆黒の海のような髪、整った目鼻立ちに不敵に笑う唇、頼りなくて節のある白い手と肌、背が高いのに華奢な背中…


一つ一つ丁寧に描きながら思い浮かべて目を伏せた。
守りたい。そう思った。

でも、勇気がなかった。


今でも鮮明に残る早瀬さんの言葉が頭に響く。



「彼は、飽くまでも[遊び]の犯行だと言ってます」



遊び…

その言葉を聞いたら、とても手紙を書く気分にはなれない。


最初から何もなかった


そう思うには、まだ時間が掛かりそうだった。



私は再び情報誌に目を向け、何箇所かに折り目を付けて、その日は早めに就寝した。
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